今回紹介するサウナ建築はLoÿly(ロウリュ)です。
Löylyは、2016年5月に、ヘルシンキの工業地域だった場所から住宅地に再開発されているエリアのウォーターフロントに建設されました。ヘルシンキ中央駅からは約2.5㎞の場所にあり、徒歩でも行くことができるため市街地と海沿いのにぎわいをつなげる目的があります。
設計者は現代的な大型木造建築物を多く手掛けるフィンランドの建築事務所Avanto Architectsです。
このサウナ建築は、サウナゾーンとレストランゾーンの2つの部分で構成されています。
図面を見ると、サウナ室には3つのサウナがあります。誰でも利用できる薪サウナ、スモークサウナ、予約制のレンタルサウナの3つです。スモークサウナは首都圏では珍しく、フィンランド人も入ったことがない人がいるそうです。
さて、それでは早速Loÿly(ロウリュ)の5つの特徴をみていきましょう。
①ランドスケープとしてサウナ
Löylyは住宅地から海への視線を遮らないように低層で作られています。
全体のヴォリュームは木板を重ねてできており「木の岩」という印象です。海岸線の新たな地盤面となり、その下にサウナ室を有する設計となっています。
実際に設計者も木が経年劣化するころにはグレー色になり海岸線の岩のようになることをイメージして設計したようです。海岸沿いのランドスケープになじむように設計されたことがわかります。
②木板を重ねた外皮
さて、この建物は、木板を重ねた外皮があるというのが特徴です。この外皮は本来なくても内部のヴォリュームだけで建物は成立するのですが、なぜ、外皮を重ねているのでしょうか。理由は4つあると思います。
1つ目の目的は、木板を段々に重ねることで階段のようになり、地面と連続したランドスケープを形成することができる点です。この階段の途中で人々は談笑することができますし、マリンスポーツが行われるときには観客席にもなります。
2つ目の目的は、ルーバー状になることで、中でサウナを楽しんでいる人が外気浴をしている人たちから見られることのないようにプライバシーを確保している点です。さらに中にいる人としても、海への眺望を妨げられることがありあません。
確かに、よくあるスーパー銭湯などは露天風呂エリアと内部空間が大きなガラス張りで区切られていますが、他人の視線が気になることがありますよね。
このようなルーバーを生かした建築は日本にもあります。それは町屋です。町家にも縦のルーバーが使われており、中にいる人には光や外部の風景をもたらし、さらに内部が暗ければほとんど外の人からは中の様子がわかりません。
だから、町家のリノベーションでサウナにする可能性はあるなと感じました。町家には光庭もあり外気浴をプライベートな空間で楽しむこともできます。
3つ目の目的は、外皮があることで、海岸沿いの強い風を遮り、サウナ室が冷えにくいようにしている点です。確かにフィンランドの冬は極寒でガラス張りのようなサウナがそのままの状態だったらすぐに建物が冷えそうですよね。サウナだって服を着させてあげようというわけですね。
4つ目は、外皮があることで、外皮とサウナ室の間の半外部空間が内部と外部のバッファーになることです。このバッファー空間は、外の風が強いときや少し囲われた場所で外気浴したい時などに活躍します。屋内のラウンジから出ることができるので利用しやすい空間にもなっています。
③室空間と室間空間
内部のプランを見ると、サウナ室やシャワー室などの囲われた「室空間」の配置を巧みに操作することで、「室空間」との間に「室間空間」ともいうべき空間ができ、そこがラウンジとなっています。
このような配置をすることで、廊下に部屋が張り付くという構成ではなく、「室間空間」がずるずると連続していくことになり、建物内のシークエンスができています。
④シンプルなインテリア
建物内は非常にシンプルなインテリアだと思いますが、その要因の1つに、利用手順やマナー、禁止事項などを表記する張り紙を一切設けていないことが挙げられます。
施設側がお客様を信じていないとできないことですよね。そんな施設側の思いをくみ取ればマナーを守ることがでると思いますし、張り紙に意識がそれないことでより“ととのう”ことができる施設になっているのだと思います。
ラウンジには暖炉があります。炎を眺めながら談笑することができる最高の場所です。暖炉に集中できるのも装飾がないからなんでしょうね。
⑤性のバリアフリー化
伝統的に男女は裸でサウナに入っていたため別々の空間でサウナを楽しんでいましたが、新たな試みとして水着を着て男女が同じサウナに入ることができるようにしています。また裸で入ることに慣れていない外国人にもサウナを楽しむことができます。
しかし、このやり方には賛否両論あり、オープン前には、サウナ協会員らとの間で議論が続けられていました。「サウナは裸で楽しむもの」とか、「水着だと生地がバクテリアを繁殖させてしまう」という懸念があったためです。でも、最終的には設計者やオーナーは性のバリアフリー化を目指し現状のスタイルになりました。
スーパー銭湯等は洗体することが目的であるので混浴は難しいのかもしれませんが、サウナは洗体が目的ではないので大事なところを洗う必要がありません。
だからこそ混浴が可能にすることができます。これからのサウナ建築は洗体を目的とするかどうかという部分を明確にすることによって家族やカップルが楽しめる場所とすることができるようになると思います。
大事な人とサウナの時間を共有することでできたらそれだけで幸せですよね。
まとめ
Loÿlyはおしゃれでかっこいいサウナということは知っていましたが、調べてみるとなぜあのように木板を重ねた建築にしたのかよくわかりました。サウナの本場フィンランドでこのような素晴らしいサウナ建築ができたことによって、日本のサウナ建築のレベルが上がることを期待してやみません。